この記事は『:christmas_tree: GMOペパボ エンジニア Advent Calendar 2025』19日目の記事です。

AIパワーの普及によっていろいろなものが劇的に変わっている真っ只中の昨今ですが、今回はその中でコードレビューについて考えさせられることがあったので、それについて書いてみようと思います。

育成の場としてのコードレビュー?

私は、テクニカルリードやエンジニアリングリードとして、コードレビューをジュニアエンジニア育成の場と認識し、コードレビューが成長のきっかけとなるように働きかけてきた面があります。

以下は、それを分かりやすく表している事例だと思います。あるプルリクエストで多くのレビュアーが多くの指摘をする形となったものについて、当時の私の見解を述べたものです。チームメンバーの成長を目的としていることが明示的に述べられています。

コードレビューをめちゃくちゃ育成の場にしようとしているのが見て取れますね。レビューコストについても述べられていますが、そもそも育成のきっかけとなることを目的としていたので、私自身が実施するコードレビューも、それにかけるコストは小さくはなかったと思っています。本筋と脱線した話まではしませんが、関連する事柄で成長に寄与しそうな技術的な話を引き合いに出したりといったことは意識的にしていました。

さて、現在はというと、上記のようなコードレビューはやめています(少なくとも今時点では)。主な理由は以下です。

  • ベテランエンジニアやリードエンジニアに教えてもらわなくても、AIパワーを使えば、知識はいくらでも仕入れられる。
  • 育成をコードレビューの目的から外し、その分、ユーザーにバリューを届けるスピードを上げたほうが良い。

大きくは以上です。とくに、育成の場をコードレビューという場から他に移すべきという点については、組織内でも明示的に伝えられましたし、そもそもAI以前においてもそのようなポリシーで取り組まれていた現場はあったと思います。なので、このトピックについては変化と感じている現場は限定的なのかもしれません。

一方で、AIがコードを書くことにより、従来エンジニアがコードを書く過程で得ていた学びが激減するため、むしろ、もっとレビューを知識共有の場や教育の場として活用すべきという意見もあります。そう考えると、コードレビューによる育成を放棄するのではなく、AIを前提とした新しい育成方法に移行するという選択肢もありそうです。集合知を持ったチームや組織のほうが強いだろうと思いますし、ひとりの人間とAIだけが密なコミュニケーションを行い、人間同士のコミュニケーションが過疎化するといった状態は避けるべきと考えています。そのためには、こちらの意見にも同意できるなぁと思います。

みなさんの現場ではどのように舵を切っていますか?

詳細を見る必要がなくなった?

エディタでイチから自分でタイプしてプログラミングをする人は、少なくとも、いわゆる職業エンジニアと呼ばれる人々の世界では、ほとんどいなくなっていると思います。場合によっては、エディタをまったく使わなくなったケースもあるでしょう。それほど、人間が直にコードを書くというシーンは減っていて、その分代わりにAIがコードを書いています。

コードレビューの際、正直私は、細かいことを見なくなっています。既存の設計ポリシーを逸脱していないかといったような抽象度が高い観点でのレビューが主になってきています。理由としては、あまり明確ではなく、まだうまく言語化も出来ていないのですが、だいたい以下のようなものかなぁと考えています。

  • AIがコードを書いているわけで、人間の思いやこだわりといったものが、以前と比べるとほとんど感じられないことが多いので、それに応えよう、汲み取ろうという動機がなくなる。その結果、細部まで見る気にならない。なんというか熱量を持てなくなった。
  • 機械的に検知しづらいタイポなども以前は指摘する機会があったが、AIはそういうミスはほぼしない。
  • 仕様駆動開発に見えるように、人間は実装ではなく、仕様とそれを実現しているかどうかと、その結果の価値が何であるかという部分に集中すべきという流れになってきていて、それは自然と理解できる。

ひとつめに書いている点は、如何にもAI以前の人間の感想と思われるかもしれません。なんというか、人間が手でコードを書いていたわけなので、一種の作品のような趣があったんですよね。また、書き方のテクニックだったり、やたら書くスピードが速い人がいたり、最新の設計思想を取り入れていたり、コードを媒体としてエンジニア同士がそういう細かい部分で刺激を受けあってた世界があったんですよね。そういうのがほとんどなくなった感覚ですね。

一方で、レビュー自体をAIにさせるという方向性もあって、実際、いろいろな人間がいろいろな観点でのレビューをしていた点を分析して整理し、観点別のサブエージェントを作り上げて、AIに徹底的に細部までレビューさせるという戦略を取っている現場もあるようです。1 詳細を見なくなっただけという私の現在の選択と比べると、とても戦略的で積極的な選択ですね。

まとめ

AI時代のコードレビューについて、身近なところで感じたことを考えてみました。絶賛パラダイムシフトの大波の中にあり、過渡期中の過渡期な今日このごろです。今この瞬間の最適解など、明日にはそうでなくなるような、とてもおもしろい時間を生きているなぁと心底思います。AIを使った生産性向上のための方法論は乱立し、デファクトとなることを目指す動きも多く、とても盛り上がっています。

コードレビューに限らず、様々な価値観が目まぐるしく変わっています。1年後に開発プロセスの王道になっているものは何なのか、技術者として評価されるポイントは何に変わっているのか、そもそも技術者の存在意義は何になっているのかなどなど、無数の観点で価値観の再構築が始まっていると感じます。

世の中の多くの人が感じているように、明日の自分が労働力として無価値になるかもしれないという危機感もあるわけですが、この激動の時代を楽しみながら、あーでもないこーでもないとあれこれ試行錯誤しつつ、この先一体どうなるのかをできる限り予見しながら、柔軟にエンジニアリングに携わっていきたいものです。

と、ポエムとしては以上になります。現場では、上で述べたようなことを課題としてきっちり設定し、解決していこうと思います。具体的な知見などは、別途アウトプットしていければと思います。それでは、よいお年を。